近年、「仮想通貨」という呼び方を「暗号資産」に置き換えようという運動が国内外で見られるようになりました。
国外ではすでにバハマなど暗号資産という名称を正式採用している国が出てきています。
日本でも、安倍総理大臣が日本維新の会の藤巻健史議員への答弁で「ブロックチェーン技術に関しては暗号資産という金融分野だけでなく、多様な分野の中で展開し、利便性・安全性を向上させる大きな可能性を秘めている」と発言しています。
今回の記事では一体なぜ仮想通貨を暗号資産と呼ぶべきという潮流ができたのか、これに仮想通貨業界はどう対応しているのかなどをお話していきます。
仮想通貨から暗号資産へ
ここでは、仮想通貨を暗号資産と呼ぼうという流れがどのようにできたのかを大まかに解説いたします。
2018年3月のG20での議論
2018年3月19日~20日にかけてアルゼンチン首都ブエノスアイレスで開催されたG20では、初めて暗号資産(仮想通貨)に関する国際的な議論が行われました。
この議論では、暗号資産を含めた技術革新が、金融システムの効率性・包摂性を改善していく可能性についても触れられました。
ですが、現状では投資家保護やマネーロンダリング、脱税などのリスクや法定通貨としての主要な特性を欠いており、金融安定に影響を及ぼす可能性がある、とも指摘されました。
共同声明では、仮想通貨のことを今後は「暗号資産」とよび、法定通貨を始めとする決済手段とは別物として考えることが明言されました。
そして、暗号資産に対する基準をFATF(ファトフ。マネーロンダリング対策やテロ資金対策などにおける国際的な協調指導、協力推進などを行う。加盟国は日本含め35カ国)が見直し、世界的に監視を続けることを提言しました。
2018年12月の金融庁の声明
2018年12月14日に、金融庁は、仮想通貨交換業などに関する研究会報告書を公表しました。
この報告書では、現在法律上「仮想通貨」と呼ばれているものを、「暗号資産」と置き換えるべきであると提言されています。その理由としては、
国際的な議論の場で暗号資産(Crypto asset)という表現が定着しつつある
仮想通貨取引所には、顧客に対して説明義務が課されているが、「仮想通貨」という名称は誤解を生みやすいと指摘されている
などを理由にあげています。
2019年2月、安倍総理が答弁で「暗号資産」という単語を使用する
2019年2月7日に行われた参議院予算委員会の中で、安倍総理大臣は、藤巻健史議員への答弁の中で「暗号通貨・ブロックチェーン技術に対して大きな可能性を秘めている」と発言。
研究・注目する必要があるものだと認識していることを明らかにしました。
業界団体は名称変更に反対
一方、国内では現状、まだ「暗号通貨」という呼び名は定着しておらず、「仮想通貨」と呼ばれることが多いです。BitflyerやBitbank,Zaifなどの主要な取引所は、概ね「仮想通貨取引所」を自称しています。
業界団体の日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA)およびブロックチェーン推進協会(BCCC)は共同記者会見を開き、上記の金融庁の提言に対して、それぞれ以下のように反対しています。
JCBAの奥山泰全会長:「仮想通貨という言葉に一度ケチがついてしまったので、名前を変えて売り出すということは本懐ではない。」
BCCCの平野洋一郎代表理事:「通貨というところに意味合いを感じている。国や銀行に頼らず「価値の移転」ができたり、取引できるのが次の時代だということもあるので、”資産”という単語には反対だ。」
「資産」「通貨」とはなにか
資産も通貨も日常生活でそれなりに目にする言葉ですが、その定義についてはよく知らない、という方も多いかと思います。
どちらもお金に関係するワードということで、両者をごっちゃにしている方もいらっしゃるかもしれませんが、両者は異なるものです。
資産は現金に変えられる財産
資産とは簡単にいえば、個人や法人などの経済主体が保有している、現金に変えられる財産のことです。現金に変えられる能力を「用益潜在能力」といいます。
銀行に預けている預金は、ATMまで行って引き出せば現金に変えられるので、資産と言えます。土地や建物、株式や不動産なども取引市場で売却して換金できるので資産です。
売掛金や債権なども、将来的には現金に変えることができるので、資産として扱われます。
個人の場合は、その人が持つ自動車なども資産に含まれます。資産の定義は非常に幅広く、しかも時勢によって変化します。
通貨は3つの機能を持つ貨幣
一方、通貨とは、ある圏内で流通手段、支払手段として十分に機能している貨幣のことです。
例えば日本円は、現代日本では通貨と認められますが、現代アメリカでは認められません。寛永通宝は江戸時代の日本の通貨であっても、現代日本の通貨ではありません。
貨幣が貨幣として成立するためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
・条件1
まず1つ目は、価値尺度機能。価値尺度機能とは簡単にいえば、お金とそれ以外のものの価値、あるいはモノ同士の価値を比較する機能のことです。
例えば、1つりんごが市場で100円で取引されていれば、「100円と1つのりんごの価値が同じものとして考えられている」ということができます。
一方、同じ市場でメロンが1000円で取引されていれば「りんご10個の価値とメロン1個の価値が同じものとして考えられている」ということができます。
・条件2
2つ目は、交換機能。貨幣は物と物をスムーズに交換する役割も果たします。
物々交換の仕組みのもとでは、取引を成立させるためには「自分が欲しいものを持っていて、なおかつ自分が持っているものを欲しがっている」人を見つける必要があります。
ですが、貨幣があれば、それを仲介手段とすることができるため、上記の手間を省くことができます。
・条件3
3つ目は、価値保存機能。貨幣はいつまでも変わらずにその額面を保存しておくことができます。
例えば、金庫に入れておいた100円は明日になっても100円ですし、10年後も100円ですし、100年後も100円のままです。勝手に101円になったり、99円になったりすることはありません。
インフレやデフレが起こって実質的な価値が変動することはあっても、名目上の額面金額が変動することはありません。
仮想通貨は通貨の要件を満たしているか?
仮想通貨は、貨幣の3要件は満たしていると考えられます。仮想通貨もものとの交換比率を表せますし、仲介手段として機能しますし、価値を保存することもできます。
ただし、「日本で流通手段、支払手段として十分に機能している」という条件が、現在で満たされているとは考えづらいため、日本人にとっては貨幣ではあっても通貨ではないと考えるほうが自然です。
一方で、経済危機により法定通貨が急速に信頼を失ったベネズエラなどではビットコインが浸透してきているため、ベネズエラ人にとっては通貨であると言えるかもしれません。
まとめ
現時点では仮想通貨という名称が広く浸透していますが、将来的には国際的な動向に合わせて、名称が暗号資産に変更される可能性は十分に考えられます。
これによって、直接投資家が影響を受けることはないかとおもいますが、名称が変更されたことによる心象の変化はあるかもしれませんし、今後さらに規制が強まる可能性もあります。
今後の動向が気になる方は、金融庁などの行政機関、及び業界団体の発言をこまめにチェックするといいでしょう。
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